私が里奈と出会ったのは、小学3年生の時だった。始業式、クラス変え後初めての整列で「あたしの前じゃない?」と声をかけられたのが始まりだ。私は背丈も体型も似たような彼女と友達になれそうな予感でいっぱいだった。のちに親友となる彼女との出会いである。
 だが、私はある日、彼女に嫌われていた事を知る。事の発端は、ある休み時間に起きた小さな出来事だった。2限と3限の間にある“業間”と呼ばれる少し長めの休み時間、普段は教室で過ごす生徒もこの時だけは強制的に校庭を走らされる事になっており、当然の事ながら帰りの昇降口は人が殺到する。私はいつも人波が治まるまで外で待機していたが、そうしてやっと自分の靴箱にたどり着いた時、何者かに故意に足を踏まれた。翌日も、そのまた次の日もそれは続き、さすがの私も誰が犯人か理解出来た。……里奈だった。

 それからまた幾日かして、今度は3年女子トイレの便器から赤白帽子が詰まった状態で発見される。“ササオ”の文字に泣きたい気持ちを必死に堪えるも、全く同じ2度目の被害に今度は涙を堪える事は出来なかった。
━━━ 一体、誰が!?
 思いあたる人物はただ1人、里奈だ。何度も足を踏まれた事、帽子が消える直前、私の席のすぐ横ですれ違った事、3年女子トイレから発見された事を思うと、犯人は彼女以外に考えられない。
 その事を口にすると、その場にいた誰もが共感を示してくれた。それでも私を含む誰1人として犯行の瞬間は目撃しておらず、教師もそれ以上追及する事はなかった。
 その後、しばらくは平穏な日々が続いたものの、今度はとある男子生徒の問診表が突如消える事件が発生。その男の子と隣の席だったのが里奈で、私の時のように問診表は見つからなかったものの、トイレに流したと仮定すれば、帽子のように詰まる事はない。
 担任による犯人捜しも目撃情報は得られぬものの、やはり彼女が怪しいとにらんだのだろう。私達は自習を命じられ、里奈は担任に連れ出されたまま30分たっても戻らなかった。
 ようやく戻ってきた彼女の目は赤く、誰が見ても泣いたのは明らかで、それを一斉に注目する級友らを前に、私は不思議と彼女を嫌いになれず、むしろ可哀想だと思った。
 気付いた時には私達はなぜか“親友”になっていて、彼女はその後の人生に良くも悪くも大きく関わる重要人物となる。