「そうなんや」
と彼の声。
「うん」
あれ、会話ってこんなにしんどかっけ。何でだろう、結構苦しい。
こんな時相手が女子なら
「小さい頃ってサン宝石よく買ってたよね」
というだけでいくらか打ち解けられる。
 だけど相手は男で彼氏だ。
 ふと彼の手元を見やる。コンビニの袋から惣菜パンと抹茶ラテがのぞく。
私はパンと飲み物にこんなにお金をかけない。というかまずコンビニ行く時間があるなら家で紅茶作って水筒に入れていく。
こんな人だったんだな。
よく考えると私は図書室と放課後の彼の姿しか知らない。
ということは彼も私のことをほとんど知らないのではないか。
私の一番好きな俳優が大泉洋だということ、
私の趣味が駅名を面白い・面白くない・狙いすぎの3つに分けることだということ(ちなみに大阪にある「西中島南方」という駅名には「どこやねん」「長いねん」よりも「誰やねん」というツッコミが一番似合うと思っている)、
彼は何も知らない。
  得体の知れない相手とよく付き合ってられるなあ。そう思った時ふとある疑問が浮かんだ。
「なあ」
 さりげなく、自然に。
「何?」
 彼は手を止めてこちらを見る。
「私の名前フルネームで言える?」
「え? 松木やん。松木……え、ユカかナナちゃうかったっけ?」

……

沈黙。そりゃそうだ。
「ごめん正解は?」
「あ、どうも松木香奈です」
「ごめん」
「いいよ」

 その時、彼が私に同じ質問をしなかったことに心底感謝した。