「えー凄くないよぉ」
 と教室の後方の席から声がした。
 中くらいの容姿、特に目立っている訳ではないが悪い噂も立っていない女にとっての
周りとの差をつける最大の武器は「お弁当を自分で作る」。
 それを吹奏学部で放送委員の石野容子はやってのけた。周りの女子が凄い凄いと同調する。このグループ意識は素晴らしい。
 女子高校生の「料理好き♪」なんてクックパッド頼りなのである。(ちなみに大学生はABCクッキングスタジオ)
女子は皆分かっている。そんなものは一夜漬けであると。
 勿論中には例外もいる。根っからの料理好き、もしくは料理を作ることが習慣となっている人。そんな人はそもそも今更料理好きアピールなんてしない。
 それでも作るだけましか、と私は目の前に広がる母親特製弁当の中からベーコンの卵焼きを口にした。
 十分に美味しい、おそらく先ほど料理好きをアピールしていた石野の作った弁当よりは。だけど私がこれを周りに自慢したところで負けるのであろう。
その理由は?
「若さ、か」
 そう呟くと私は家で淹れてきたお茶を飲み干した。