キスをした。どうやって息をしていいのか、わからなかった。静寂で、自分の心音が聞こえてきてしまう。ふと、唇が離れた。彼は、すぐにあたしをギュッとした。あたたかかった。彼は、とてもあたたかかった。その時だった。コンビニに行っていた、真奈と直さんが、足音と自分の声を引き連れて戻ってきた。彼は慌てて2つの身体を引き離し、2人のあたたかさをあっというまに解放してしまった。けれど、あたしの中には、あたたかさが解放しきれずに、少しだけ、取り残されていた。直さんは部屋に入ってくるなり、いきなりの冗談で「2人きりでなにしとったや?」と、真奈と一緒になって、ちゃかして、あたしたち2人に投げかけた。あたしは、的を得た直さんたちの質問に、どうやって答えたらいいのか、必死に言葉を探した。すると、彼が「直さんと一緒にしないでくださいよ。」と、軽く受け流した。あたしは、それに笑って、必死に便乗した。それからは、4人で、夜更けまで喋りとおして、いつのまにか、みんな眠ってしまっていた。翌日から、あたしは、あの時の事が理解できなくて、正直、戸惑っていた。あれから、彼とは1度も面と向かって話していない。あたしは、彼の事を好きかと言えば、嫌いではないような気がする。でも、気がする程度でしかない。彼が、あたしの事を好きかと言えば、遊んだのははじめてだったし、出会って間もなかったし、あたしの中では、あり得ないことだった。でも、彼はキスしていいか?と聞き、あたしはうなずいてしまった。わけがわからなかった。とにかく戸惑った。