広い、広い玄関の前でじっと立ち止まる。


ローファーは履いたものの外に出ることが出来ない。

外の世界が、少し怖い……。



ふと後ろを向くと、メイドの亜美がいる。

亜美は私の革の鞄を持ち、何か言いたげに私を見つめていた。


彼女は私の雑用係。

ベッドメイキングやお風呂など陰ながら様々なことをしてくれている、みたい。
そのせいか話したりすることは全くない。

零は車出しで先に行ってしまっていないから、仕方なくメイドの亜美に小言を漏らすことにした。



「やっぱり、行くのやめるわ…気持ちが悪くなってきた」



亜美は、零と同じ20代後半くらい。

流れるような茶色の髪を頭のてっぺんでお団子にしている。

ツリ目がよけいキツく見える少しばかり派手なメイク。

でも見た目と違い、大人しく発言もしないメイドだ。



メイドは、主人の身の回りの世話もするらしいけど、でも私には零がいる。

零一人いれば十分。