群なす夢魔を抱き



いつもそうだった
部屋が
蛇に埋もれていた

身体にまとわりつく百匹の蛇を
一匹づつ優しく外しながら
最後の一匹と別れて次のドアを
そっと開く
その部屋がまた蛇で埋もれている

冷たい鱗が
ぞりぞりと素肌を這いまわる
引き延ばされた戦慄に
忍耐が削られ始める

だが蛇もそうなりたくて
生まれて来たわけではなかろう
瞬く間に重いほど身体に
再びまとわり絡みつき
締め付ける夥しい数の蛇を
また一匹づつ
引き離していかねばならない

「そんな夢を見たのですよ先生」
私はソファに座り
カウンセラーに告げた
「あなたはその蛇をどのように感じ
ましたか?」
カウンセラーの問に私は答える
「気持ち悪かった…です」
「ではそう言いましょう
『気持ち悪い』…と」

結局私はその言葉を口にすることは
なかった
それは私が昔言われ続け
人以下に扱われた日々の
私への皆の挨拶だったから
「気持ち悪いなお前」
「気持ち悪いから近寄るな」
「気持ち悪いんだよ」
「気持ち悪いから死ねよ」

だから私は決して言わない
彼らは蛇よりも執念深く
蛇よりも陰険だった
彼らの吐く毒は蛇よりも
私を殺した
蛇は望んでそのように
生まれてきたのではなかろう…
私は今も夢の中で
蛇の群に埋もれている