「ほら、ウダウダ言ってないで行くぞ!」

「佐久間主任!」

抵抗虚しく、佐久間主任に手首をガッシリ掴まれてしまう。

「それに、君には聞きたいこともあるしな」

「えっ?!」

扉を開けながら意味深に呟く佐久間主任の言葉に思わず顔をあげる。

困った。

なんか、含みのあるこの真剣な目が苦手だ。

でも、恐いのに佐久間主任の目から顔を背けることができないまま、不本意ながら見つめ合っていると、


「あーーー!!いたいた!!杉原ちゃん、探したよぉぉ!!」

医務室を出るなり、エレベーターホールの方から株式トレーディング部の横田が駆け寄って来る。

部署は違うけど、彼は数少ない同期の一人。

通称KY横田。

160cmはないちっちゃな背に負けないくらい、パワフルな声と屈託のない笑顔で私の手を取る。

「今日サァ、遅れに遅れていた株トレの部長の就任祝いなんだけどさぁ、女子が足んなくて。杉原ちゃん、花を添えてくれないかなぁ」

「えっ?でも部署違うし……」

「いいよ。違ったって。もう場所押さえてるのに頭数が足りなくてまずいんだよ。
なっ、この通り!僕を助けると思って……」


KY横田が両手を合わせる。

そ、そんなこと言ったって……

佐久間主任をちら~っと見てみる。

げ。

やっぱ、機嫌悪そう。

相変わらずタイミング悪いよ、KY横田!!


「飲み代は要らないから」

「えっ?!タダ?行くっ!絶対行く!!」

「杉原君!」


はっ!

条件反射で手をあげてしまってから我に還る。

飲み代タダ、恐るべし。


「やりぃ~!サンキュ、杉原ちゃん。じゃぁ、八重洲口南口集合な」

「あっ!ちょっ、待って!」


KY横田が私のあげた右手にハイタッチをして、猛ダッシュで駆け抜けて行ってしまった。