女性は、自分は取締役専属の秘書課から来たと自己紹介する。

そして、火急の用事があるからとトレーディングルームから連れ出され、役員専用の応接室に連行される。

たっかそぉな調度品に囲まれて、気持ちがソワソワ落ち着かない。

はてな?

何で私のような雑魚キャラがこんなに立派な応接室にいるんでしょうか?


秘書様に勧められるがままに革張りの黒いソファーに深々と体を沈め、キョロキョロと辺りを見回す。

やっぱ、分かんない。

私、何でこんなところにいるの?


う~ん、と唸りつつ、首をポッキリと横に折る。

それでも目の前に用意された美味しそうなコーヒーの香りに誘われて、姿勢を正し、ずずっと一口流し込んでいると、重々しいドアが開き、奥田課長が入って来る。


「課長!」



ポッカーン!と口を開けつつ、過去の様々なデータが脳裏に乱れ飛ぶ。


そうだった!


課長は、今や異例の大出世を遂げ、経営戦略本部長兼取締役な訳で……

「課長」なんて役職はとっくのとうに脱皮されていたわけで……。

だけど、私の中で奥田「課長」はフォーエバーに「課長」な訳で、でも、課長は経営戦略部長兼取締役だから、当然、この役員専用の応接室は奥田課長も使えて……


やーーーーん。
ややこしい!


「驚かせてすまなかった」


向かいのソファーに腰を下ろしながら課長が謝る。


「はい?」

「急遽、向こうで飛行機のキャンセルが出て、予定より早く着いたんだ。
メールをしたんだが……」

「メール?」


はっ!

そうだ、トレーディング室のコートの中に置きっぱにしていたケータイ!

まだ見てなかった。


「あんなことになっているとは知らず」

……あんなこと??



はぅぅぅっ!!!



あんなことって、やっぱり、課長は……見てた……の?


課長は顔の前で指を組むと、怒っているようなそれでいて困惑しているような顔で私をじっと見つめていた。