課長。

もしや落としちゃったのは携帯でしょうか?

携帯落としちゃうくらい呆れてしまいましたか?

数秒後、携帯を拾ったらしい課長からの力無い第一声が耳に届く。


「バカヤロウ」

「……ですね」


GWの1週間のラブラブ予定が一気にシューンとしぼむ。


佐賀から戸籍抄本を取り寄せてこれから申請なんて、どう考えても間に合いっこない。

ようやくとれたお互いのお休み。

次にまとまった休みが取れるのはたぶん、夏休み。

つまり最短でも2ヶ月後。

暗~く沈む私に電話の向こう側で課長がふぅっと溜息を吐く。


「わかった。俺が会いに行く」


出掛けた鼻水がずずっと引っ込む。


「えっ?!」

「今からなるべく早い便でそっちに行く」

「ええっ?!」

「何が『ええっ』だ」

「だって、だって、課長、お仕事が!それに、私、大丈夫ですからっ!
夏休みまで待てますから」

「俺がダメなんだよ」

「え?」

「とにかく、トンボ帰りにはなるが、来れるか?成田空港に」


ものすごい展開に驚き、頭がついて行けない。


「トンボ帰り、ですか?」

「ああ。少ししか帰国できなくて申し訳ない。だが……」


その後の長い長~い沈黙。


「『だが……』、なんですか?」


「……お前を抱き締めることはできる」


にゃっ!
にゃんですと!!


「じゃ、飛行機が取れたら連絡する」


言ってしまってから照れたのか、課長はそそくさと電話を切ってしまう。


あのカタブツの課長がこんな情熱的なことを言うなんて!


私はしばらくポカーンと呆けた後、現実に戻り、頬が緩む。


でも、ともかく、課長に会えるんだ!!


明後日にはキスとハグ!


「ヤタ~!」


私はケータイを切ると、待ち受け画像の課長の仏頂面にそっとキスして抱き締める。