「由紀、ここはおいに任せて行け」

背後からの声に振り返る。

「とぉちゃん!」

とぉちゃんが興奮したように真っ赤な顔(酒の飲み過ぎたい!)で、かぁちゃんにならって仁王立ちしてる。

「そぉたい。ここは、俊之に任せときんしゃい」

「ばぁちゃん!」

「いざとなったら、俊之が村長さんと一緒に裸踊りでんなんでんして謝るたい」

「じぃちゃん!」

「あんたが幸せにならんやったら、村のモンはみんながっかりするたいね!」

「豆腐屋のおばちゃん!」

「あんたが産まれるっちゅぅたときは、わしがリヤカーに乗せて道子ちゃんば運んだとさ。幸せにならんば、承知せんぞ」

「(裏山に住んどる)ゴンゾーじぃちゃん……」


気付けば、村から来たお見合いツアーの村人達にワラワラと囲まれていた。


「みんな……みんな……ありがとう!!!」

人混みを掻き分けて、鼻息も荒く、30歳独身の富美代(ふみよ)ねぇちゃんがやっぱり仁王立ちして(←家系やね)力強く名乗りを挙げる。


「由紀、あんたの見合いの続きは代わりにあたしがしとくけん、安心して行ってきんしゃい!」

「おう!それでもダメだったら、俺が相手だ(←ん?なんの??)」

2つ下の弟、田吾作(たごさく)が拳を振り上げる。

「みんな、本当に有り難う。ごめん!私、行ってくる!!」

「「「「おおおおおおっっ!!!」」」」


周りからのヤンヤヤンヤの掛け声に、一層、課長を逃してなるものかって気がして来たぞ。


出口までダッシュで走り掛けて、ハタと振り向く。



「ごめん。誰か、車ば貸してくれんね?…………あれ?どして、誰もおらんと?」


あんなに沢山いた村人は、なぜかいそいそと逃げるように退散していた。