そんな時でも、食欲には勝てない。

ずーんと重く考えてしまいそうになるのは、きっと、お腹が空いてるからだよ、うん。

台所のシンク下からカップラーメンを取り出すと、冷蔵庫からミカンの缶詰を取り出して、扉を後ろ回し蹴りキックで閉める。

ビバ!
独り暮らし!!

口うるさいかぁちゃんやばぁちゃんがいないって素敵♪

そんな私を嘲笑うかのように、ケータイ様が、

ダッダッダダァァァ~ン

と『運命』の戸を叩くかのように着信を知らせる。


つい条件反射で手に持っていたカップラーメンと缶詰を吹っ飛ばして、ケータイ電話に飛びつく。


「かぁちゃん!!」

「由紀、あんた、私がおらんからって、気ィば抜いて自堕落した生活ば送っとらんやろうね」

かぁちゃん、恐るべし。

なんちゅーベストタイミングで電話を入れるんだよん!


「ど、どがんしたとね。かぁちゃんが電話くれるなんて珍しかぁ」


焦りつつ、時計をちらっと見る。

この時間は、かぁちゃんととぉちゃんは村の公民館で社交ダンスを踊ってるはずなのに。


「どがんも、そがんも、あるかいね!あんたの将来がかかっとるやろうが」

「将来?」

「見合いのことたいね、見合いの。村長さんからも手紙が行っとったと思うばってん?」

「ああ。来とったよ。今、見たとこたい」

「それ、今週の土曜日に東京ですることになったけん」

「えっ?!今週の……土曜日?」

今週の土曜日って……。


「なんね?都合悪かとね?」

「……ううん。そぎゃんこたぁなかけど」

「じゃ、家族みんなで行くけん、ちゃんと、準備しときんしゃい」

「……うん」


私は電話を切るとその場にヘナヘナと座り込む。


運命ってばイタズラ過ぎる。

1年は365日もあるのに……

よりによって、何でこの日なの?


私はケータイのカレンダーを開き、今週の土曜日の欄に目を落とす。

日付に花マル。

そして、『鬼、去る』の文字。

私はその文字をじっと見つめたまま、その場に座り込んでしまっていた。