本部長の話は衝撃的だった。

部長は、長々と前振りをした後で、実は今、会社が危機的状況にあることを話し始め、そして、その危機を脱するためには、荒療治が必要だと言う。

そこで、各部署の中から、タスク・フォースと呼ばれる数人の精鋭社員が選抜され、その荒療治を実行すること、そして、この債券トレーディング部からは課長が選任され、その任に就くことが発表される。

さらに、建て直しのために外資系金融機関の資本提携を受け入れることなどが話される。

そうした説明が一通りついた後、本部長に促されて課長がみんなの前に進み出る。


「奥田君はこの債券トレーディング部の売り上げのほぼ30%を叩き出している逸材だが、今回、彼は経営戦略本部の本部長としてマネジメントに参画することとなった。彼ならば、事業の立て直しに貢献してくれると私は確信している」



何?
何??


本部長の言っている意味が全然、分からないんですけど……

「それで、か。ここんとこ、課長、しょっちゅう、本部長に呼び出されてたよな。
だけど、経営戦略本部の本部長に抜擢とは大出世だな」


背後に立つ佐久間さんが、ぼそっと囁く。


佐久間さんに何が起こっているのかを質問しようとしたけど、課長がみんなの前で発言し始めたので、慌ててそちらに気持ちを集中する。

「大学を卒業し、それから、海外の大学から戻ってからも含めて、10年間、当部署のみなさんには大変お世話になりました。これからは、ここで学んだことを土台に……」

課長の言葉が遠くに聞こえる。

何を言っているのか、さっぱり分かんない。


経営戦略本部の本部長?

課長が??

だって、課長は……課長は……債券トレーディング部の課長で……

私の上司で……

いつだって、私の隣に座ってて

そんでもって、「バカヤロー!!」って怒鳴ってて……

それはこれからも、そうで……

ずっとずっとそうで……

課長がどっかに行っちゃうなんて、そんなことはない訳で……


「ああ、それから……」

本部長がもったいぶったようにコホンとひとつ咳をすると、さらにとんでもないことを発表する。


「あ~……実は、本日付をもって奥田君には取締役員にも就任することが決まった。まずはNY支社で取締役兼経営戦略本部本部長として、その采配を揮ってもらうことになると思う」

本部長の一言に部内がざわめく。

えっ?!

本部長どころか、取締役?!

それにNY?

NYって、課長、日本にすらいなくなっちゃうの?

こんなに急に私の前からいなくなっちゃうの?


「そんなっ!そんなのダメです!!」


私は思わず叫んでしまう。