ホテルを出て、課長と山手線に乗り込む頃には、ようやく鼻血も止まっていた。

小春日和の温かい日差しが反対側の車窓から差し込み、並んで座っている私達2人にも届く。


「温かいですね~、課長」

「そうだな」

「あの……いろいろ迷惑かけてすみませんでした」

やわらかい日差しの中、課長が少しだけ笑ったような気がした。

「別に迷惑だとは思ってない」

「課長……」

思わず上げた目線が課長と絡み合う。


課長……

それって、どう言う意味なんですか?

聞こうか、どうか迷っている私の前で課長があくびをする。


「眠い。少し寝るから、新宿に着いたら起こしてくれ」

「分かりました」


2駅を通過した頃、課長がコックリコックリと舟を漕ぎ始める。


もしかして、課長、昨夜、寝てないとか?



……まさかね。



やがて、課長の体が傾き、彼の髪が私の頬にかかる。

ふわふわでくすぐったいぞ。


安心しきったようにスーっと寝息を立てる課長の寝顔は意外と可愛いじゃないですか。


ホテル代を分割10回払いで返しますと言った私に、「お前がそんなこと気にしなくてもいい」と髪をぐしゃぐしゃにした課長の大きい手も意外に温かかった……気がする。


ユラユラ心地よく揺れる電車に乗りながら、私は課長の頭に自分の頭を預け、いつの間にか目を閉じた(らしい)。


ぐっすり寝入ってしまった私が目を覚ましたのは、それから何周も周回した後の、とっぷり暮れかかった夕暮れ時。


高田馬場駅に着いた時に起こされた課長の膝の上でだった。