「おふくろと澤村の伯父は、高校のときから付き合っていたと、昨日、聞いたよ」

問うともなく、課長が語り始める。

「だが、伯父のアメリカ留学をきっかけに遠距離恋愛が始まり、そこに親父が割り込んで、卑劣な手段を使って2人の仲を割いたようだ……」

「そんな……!」

「親父が今際の際に、2人に『あの時は悪かった』って何度も謝ってたから、本当だろうな」

課長が私の腕を優しく撫でる。

「そう……だったんですか……」

「だが、分かれたはずの2人は、親父とおふくろが結婚したのをきっかけに再会。2人は親父に陥れられたことを知り、よりを戻して、やがて俺が産まれた。俺は親父にも良く似ていたから……。

まさか、自分の実兄と妻との間に出来た子供だったとは夢にも思わなかったんだろうな」

課長と、澤村専務、そして、課長のお父様の顔を思い出してみる。

確かに、凄くというわけじゃないけど、3人ともよく似ていた。

「親父は次男坊の気安さからか、いろんな事業に手を出しては失敗し、伯父に尻拭いさせていた。そして、やがては酒に溺れてあの有り様さ……」


うなだれながら聞いていると、突然、課長の唇が私のうなじを這い、ピクンと体が揺れる。

「そして、ある日、俺は町で声を掛けられ、軽い気持ちで献血に協力した。17の時だ。

結果を聞いて、まさかと思った。

俺の両親はO型だったから、A型の俺が生まれるはずはない。

その時……」

課長の両手がそっと私の両胸を包み込み、吐息が漏れる。

「俺の親父が、澤村専務だということを知った」