そして、勇気を出してお風呂に入って数分後。

課長はどうしているかと言うと……

メチャ機嫌が悪い。

「……で?どうしてお前はそんな隅に、俺に背を向けて入ってるんだ?」

「そっ、それはですね。ここが私的にベストポジショニングなわけでして……」

「ほぉ~……」

課長の目が、冷ややか~にお皿のように細くなる。

パシャンと言うお風呂の小さな水の音にもびくっとする。

「……明日は、雨だな」

課長が突然ボソリと言う。

「えっ?!分かるんですか?」

「雨の前日は傷が疼く」

「へぇ~。便利ですね」

そぉっと振り向くと、課長の優しい微笑みに、ドキンとしてしまう。

「上を見てみろ。朧月夜だ」

課長の指す指の先には小さな窓があって、そこに丸いお月様がぽっかりと浮かんでいる。

「きれい……」

油断した隙に課長はさっと私の脇の下に腕を通し、自分の前に挟み込むように私を座らせてしまう。

「か、か、課長!!」

む、胸が……胸が……課長の腕に……。

そ、それに……!!!課長、密着しすぎで~~!!!

動揺激しい私は一気に茹でダコになってしまう。

「俺はとても卑怯だったんだ……」

はいっ!

いきなりこんな技を仕掛けてくるなんて、とっても卑怯だと思います。

バクバク破裂しそうな心臓が、今にも喉から飛び出て来そうになる。

「おふくろと親父は、俺が物心ついた頃から上手く言っていなかったように思う」

え?

……課長?


振り返って見た課長の目が、遠い朧月夜に吸い込まれそうで、少し怖くなる。