佐久間主任は振り返りもせずに、私の手を掴んだまま、さっさと歩いて行く。

「佐久間主任、待って下さい!そんなに……あっ!」

ヒールをマンホールの凹みに取られて、足がグキっとなってしまう。


「杉原君!」

慌てて佐久間主任が屈み込む。

「いったぁ~……」

「ごめん……。早く2人きりになりたくて……」

ふっ、2人きり!?

ちょーーーーっと待ったぁぁぁ!

「あのっ!お返事ならここでっ、しまっすから!」

「……何、噛んでんだよ。今じゃなくていいよ。とりあえず、どっか店に入ろう」

あ。

2人っきりにって、お店に入ることね。

ややこしい言い方するから、勘違いしちゃったじゃんよ!

かぁ~と顔が熱くなる。

「あ。ここでいいや。ここに入ろう」

顔を上げて辺りをキョロキョロしていた佐久間主任がある店に目を留めると、私の肩に手を掛け、強引に店に入る。

肩!

肩の手が気になるんですが!!

肩に置かれた佐久間主任の手が気になって、お店どころじゃなくなる。

「いらっしゃいませ~」

「2人だけど、部屋、空いてる?」

「部屋?!」

佐久間主任の言葉に私はギョッとする。

部屋って、なんじゃ?

「102室2名様~!ご案内~!!」

入り口のディスプレイに怪しい場所じゃないことが分かり、とりあえずホッとする。

ここ、カラオケボックス!?

私の目がキラ~ンと光る。

「あのさ、期待させて悪いけど、お前の歌を聞きたいわけじゃないから。

俺も生きて帰りたいし。

とりあえず、2人だけで誰にも邪魔されずに話しがしたいから」

佐久間主任がスタスタと従業員について部屋に入っていく。

私は入り口で手にしていたマラカスとタンバリンを置くと、慌てて佐久間主任の後の続く。