「以上だ。急で悪いが、明後日に備えてこちらのスタッフに引継ぎをしておいてくれ」

課長がファイルを畳み、立ち上がる。

私も同時に立ち上がったところで、佐久間主任に手を掴まれ、つんのめりそうになる。

「杉原君、座って。ちょっといいですか、奥田さん」

佐久間主任が両膝に手を置き、課長を見据える。

「どうした。何か問題でもあったか?」

ふっと笑いながら課長がソファに戻り、再び腰を降ろす。

「プライベートな話しをさせて下さい」

プライベート?って……。

佐久間主任は何を言おうとしているの?

いつになく真剣な佐久間主任の眼差しに、課長の顔から笑みが消え、姿勢を正す。

「いいだろう。聞こう」

課長も指を組み、じっと佐久間主任を見据える。


「……僕は、杉原君が好きです」

「佐久間主任!?何を……」

「本人にもそう伝えました」

課長がちらっと私を見て、視線を佐久間主任に戻す。

「……それは宣戦布告か?」

「そう取って頂いて、構いません」

「そうか……。プライベートな話はそれで終わりか?」

「……はい」

「分かった。では、2人とも仕事に戻れ」

課長の部屋から出て、放心状態からはっと現実に戻る。

「佐久間主任、何であんなことを!」

「何って?宣戦布告のこと?」

「私、課長と付き合ってますから」

「でも、幸せそうには見えない」

「何を……根拠に……」

「ある日、息が止まりそうになるくらい美しく輝いてるかと思えば、ボロボロな土偶になったり……。

嫌なんだよ。

そんな風に君が陰で泣くのを黙って見届けるくらいだったら、俺は俺の手で……俺の目の前でいつも笑わせてあげたいって思うんだよ」