場が引けると、その怒りの勢いのまま、林さんの待つ営業部の会議室に駆け込む。


何が何でもこの玉を売って、鬼課長を地獄の一丁目ツアーに送っちゃる!

課長の嫌味な一言に、闘志メラメラ、燃えて来た。



「……で、これが杉原ちゃんの今の担当先のポートフォリオ(所有している複数の金融資産)の一覧表。杉原ちゃん?聞いてる?」

はっ!
いけない。
林さんとミーティング中だった!

「きっ、聞いてますよ~」

林さんがプリントアウトしてくれた一覧表に慌てて目を通す。

その瞬間、燃え盛っていたやる気ファイヤーが一気に鎮火する。

投資顧問に生保に損保に銀行さんの合わせて12社。

見込みのありそうなところが見当たらない。


このポートフォリオじゃ無理そう……。


『出来る可能性』なんて見当たら無いっす。


絶望的な気持ちで、もう一度一覧表を見る。

私の目の前に座って表を見ている林さんの表情も険しい。


あ~あ。

私のボントレ(ボンド・トレーダーの略(ボンドは債券))ライフもこれでおしまいかぁ。

事務職とかに転属になったら、今もらってる営業手当3万円が付かなくなるから、極貧ライフに突入だヨン。


トホホ気分で一覧表を見ていた時、何だか気になることがあってその部分をガン見する。

私は紙を林さんが見えやすいように逆さにして質問する。


「林さん、この表の4社の枠が灰色になっているのはなぜですか?
ポートフォリオも書いてないようですし……」

「ああ、それね。その4社はスリープなんだよ」

「スリープ?何ですか?それ」

「うちに口座を開いてはくれてるけど、ここ数年、取引の無い客先さ」

取引が無い……のかぁ。

じゃぁ、取引してくれる可能性は低いなぁ。

う~ん。

でも、何か引っ掛かる。

「この4社のポートフォリオって見れますか?」

「ああ、見れるよ。ちょっと待っててね」

林さんが社内データを呼び出す。

4社のポートフォリオが次々と画面に映し出される。

「これは!いけるかもしれんな」

林さんはある1社に目を止めて、私の方を振り向くと、力強く頷く。