会社に戻り、佐久間主任はテーブルの上に全ての書類を広げる。

そして、PCを開き、課長からの指令に目を通すと、はぁ~と深い溜息をついた後、言葉を失っていた。

「参ったな。俺がどうすれば企業としての利益を最大化することができるのか考えていたっていうのに、あの人は、俺の想像の遥か上を行っているなんて……」

「佐久間主任、一体……」

佐久間主任は、PCをクルリと私に向けると、英語で書かれたメールを私に見せる。

「『債券で日本初のPTSを取り入れるから、その準備を頼む』って奥田さんからの指令が来てる」

「PTS?」

「私設取引所さ。もしこれが実現できれば、日本の債券市場はガラリと変わる」

「はぁ……」

「取引所を介さなくても証券会社が開設したコンピューター・ネットワーク上の市場での取引ができれば、債券の流通市場が活発化され、取引量も増える。ただ……」

「ただ?」

「まだ、時期尚早との声もある。もしくはこのやり方自体が日本に馴染まないという声もあるけど、それを奥田さんはあえてしようとしている」

佐久間主任は、多くの書類にものすごいスピードで目を通している。

「投下資本20億。人員30名。バンカメからの技術提供。事業会社への資本への参加呼び掛け。それだけじゃない。古参の証券会社への市場への参加呼び掛けと啓蒙……。ハンパないな。これだけのことを、2年足らずやるつもりだ」

「できるんですか?」

「……やるんだよ」

そして、興奮気味だった気持ちを静めるかのように佐久間主任が天を仰ぐ。

「このプロジェクト……。成功すれば、多大な利益をわが社にもたらすけど、失敗すれば……間違いなく倒産する」