エレベーターを降りて、課長が部屋の鍵を開ける。

課長の後ろに続き、足を一歩踏み入れた途端、ぶわっと総毛立つ。


この香り……!


課長が普段使っているトワレがほのかに部屋に満ちている。


ああ……。

まるで、課長にまるごと抱きしめられているみたいだ。

こんな感覚、初めて……。

お腹が、キューッと掴まれたような変な感じがして、両腕を組んで体を丸めていると、課長が「どうした?具合でも悪いか?」と心配そうに私を覗き込む。


「いえ。ちょっと、寒いのかもです」

「冷え込んできたからな。すぐに風呂を入れるから入るといい」

課長は、足早に玄関を上がって、バスルームへお湯を張りに行く。


リビングの明かりが自動で付き、リビング全体が照らし出される。



なななんですか?!この広さは!!



それに、課長!

さっきの日本語、ばっちり間違ってます!!

これは「散らかってる」と言うのではなく、「殺風景」って言うんです。


私は、まるでモデルルームのように無機質で、だだっ広いリビングの真ん中で、ポッカーンと口を開けて立ちすくんでしまっていた。