生クリームを作るべく、泡立て器で格闘すること約5分。

おかしい。

課長がまだ帰って来ない。

そわそわして、何度も厨房の入り口の扉をチラ見していると、

「遅いな、奥田取締役」

隣でオレンジをカッティングしていた佐久間主任の手が止まる。

「ちょっと見てくるよ」

「いえ、私が行ってきます!佐久間主任はクリームの泡立てをお願いします」

立ち上がりかけた佐久間主任に強引にボウルと泡立て器を押し付けて、倉庫目掛けて大急ぎで厨房から飛び出す。

倉庫まで僅か数十歩。

遅い。

遅すぎるってばよ、課長。

1分と掛からないはずなのに……。

倉庫に辿り着くと、扉が開いて誰かの話し声が聞こえる。

ひょいと顔を除かせると、課長の横顔発見!

「かちょ……」

だけど、深刻そうな課長の顔と声に足が止まる。

誰かもう一人……いる?


「あの話は、受けてくれる気になったかね?」

「その件でしたら、以前から何度もお断りしてきました」

「だが、私としては……」

ソロリソロリと後ずさり、扉の陰に隠れるようにして、そぉ~っと顔を出す。

誰、課長と話してるのは?

扉の陰から、ついこの間、目の前にしたことのある人物の顔が現れる。

……澤村専務!?

課長が話しているのは、澤村専務だ。


『俺の本当の父親だからな』


課長のあの時の告白を思い出し、緊張してしまう。

「分かった。とりあえず、この件は今は私の胸に収めよう。たまには家にも顔を出しなさい」

澤村専務の声が一気にトーンダウンする。

「……ええ。そうですね」

課長の低く、感情を抑えた声が耳に届いて、気になってもう一度そぉ~っと物陰から顔を出す。



ひ、ひゃぁ~~~~!

しまった!!

ばっちり課長と目が合ってしまい、その場で体が化石と化す。