厨房に入るなり、急いでコックコートをはおる。

そうだ!

ジュレにしよう!

成型せずに、崩して量を増やして……

頭の中は戦闘体制のまま急いで指示を出す。


「バレンシアオレンジを大急ぎで1ケース持ってきて!」

「了解」

髪を束ね、前髪を掻き揚げ、急いでちぎった紙の切れ端に簡単にレシピを起こす。


「それから、砂糖を1キロ……いえ、2キロこのボゥルの中に!」

「了解」

そうだ。

ジュレと言ってもフツーに作ってたんじゃ、つまんない。

ここは大人モードに一工夫を……


「倉庫にオレンジキュラソーがあると思うから……」

「オレンジキュラソー?」


ここでハタと思考が停止する。

冷静になった額からタラ~リと汗が流れる。


私……

今まで……

「誰」に

「命令」

してました?



「オレンジキュラソー……?」

眉間に皺を寄せて私の真横に立って呟く課長とバッチリ目が合う。


「きゃーーーー!!!すみません!!私、私ってば…」

「何を謝ってる?オレンジキュラソーはどんなモノだ?」

「いえ。その……すみません!!自分で取ってきます!」

慌てて、倉庫に向かってダッシュする私の腕を課長がガッシリ掴む。


「待て!司令塔が動いてどうする!兵隊を使え、兵隊を!!」

「課長……」

「ここではお前が上司だ。俺を使え」


……課長が…部下?

私の??

……いや。

こんな態度のでかい部下なんていないだっちゅ。


腕を組みながら、指示を待つ課長の姿に、「はぁ~」とため息をつく。

「ん?どうした?」

「あ、いえ。では、持ってきてもらえますか?オレンジキュラソー」

オレンジキュラソーの特徴を図を描き、倉庫の場所を教えながら、課長に恐る恐る「お願い」をする。

「了解」

課長は微笑むと、小走りで去っていく。