ハイヒールに足を通し、課長にエスコートされて大広間に向かう。

煌びやかな光の洪水に圧倒されながら、正装した紳士淑女たちの間を縫うように課長は私を紹介してくれる。


だけど……


嬉しいを通り越して、ただただ圧倒される。

テレビや映画でみたことがあるような人たちが、にこやかな微笑を私に向けてくる。

課長を通して親しみをこめた視線を私に向けてくれる。


「まぁ、ミスター奥田のスタッフの方でしたの?」

「可愛らしいお嬢さんですね」


好意的な言葉に、ボキャブラリー貧困な私はただイエスと笑顔で返事する。

酸欠でぶっ倒れそう。


もう10分だって立っていられない……

そんな私の様子に気付いたのか、課長がさり気なく壁際の椅子に私を座らせてくれる。

「水を取ってくるから、座ってろ」

課長の優しい言葉に、コクンとなんとかうなずく。


良かったぁ。
ようやく解放されたぁ~。


ヒールをそっと外して、休もうしたとき、

「ね、杉原ちゃんだよね」

前方から聞こえてくるひそひそ声にドキンとなり、腰が浮く。

目を細め、光を背負ったその人物にようやく焦点が合うと、そこにはボーイの格好をしたKY横田。

「良かったよぉ~。探したんだよぉ~!」

「横田!どうしたの?」

「デザブ(デザートビュッフェ)が足りないんだよぉ~!!」

「ええっ!どれが?」

「ババロア。もんのすごい好評で。もうないのかって。でも、これって杉原ちゃん独自のレシピで誰も知らないし……」

困り果てているKY横田の背後から、彼を押しのけて黄色いドレスを着た若い女性が私に手を差し出す。

「まぁ、あのババロア!あなたが作ったの?!おいしかったわ!あんなおいしいのが作れるなんて素敵!」

「いえ、そんな……。喜んでいただけて光栄です」

私は、ここにきて初めて受け入れてもらえたようで嬉しくて、めちゃくちゃ嬉しくって女性の手をしっかり握って笑顔を返す。