嬉しい!

好きな人が、ちゃんと自分を信じてくれるってこんなに嬉しいものだったんだ。

課長の温かい胸の中、頬をスリスリしながらムギューッと課長を抱きしめ返す。


「だが、今一度いう。俺以外の男と二人きりになるな」

「課長……」


んふんふ、んふふ~。

ああ。

私、なめこちゃんになってます~。

このままずっと課長の腕の中で栽培されていたいです。

顔を上げると、課長はそっとキスを落とす。

ほぇぇぇ、幸せじゃのぅ。

さっき鬼だなんて、思った自分を反省ナウ。

このままフォーエバーにキスしていたい。

と、思っていたのに、課長ってば、

「そういえば、その箱は?」

「箱?」と、現実に引き戻される私。


そういえば、そうね。

なんだろう。


「お前にって、言ってたな」

「はい」

二人で顔を見合わせる。

「開けて……見ますか?」

課長が軽くうなずく。

箱を開けるとそこにはハイヒールの靴が!

「課長、靴が入ってます」

「ああ……」

課長は頭を抑えて壁に寄りかかる。

「そう、か。すまん。そこまでは気が回らなかった。お前のそのドレス、おふくろに見立ててもらったんだが……。そうか、靴……」

営業用のくたびれたローヒールが恥ずかしくて私はソロ~リと足元を引く。

課長はそんな私を見て、ふっと笑う。

「恥ずかしくなんかないさ。キャリアウーマンの勲章だ。
だが、それに気付かない俺は恋人失格だな」

きゃ、キャリアウーマン?!

こ、恋人~!!

課長の言葉にぽぽっと頬が赤くなる。

課長は私の持っている箱を手にすると、かがみ込み、私に靴を履かせてくれる。

「ぴったりだな」

ああ。
なんだか、気分はシンデレラ~♪
心は彼方にトンデレラ~♪

「どうやら、優秀な秘書がサイズを事前にリサーチしてくれていたらしいな」

課長はやわらかく微笑みながら、廊下の突き当りを見て、ちょこんと片手を上げ、目配せをする。

その廊下の突き当りでは、心配そうに私たちを見送っていたらしい榊室長がにっこりと微笑みながら会釈を返していた。