一瞬、何が起こったのか分からないまま、突っ立っている私に課長が上着を放る。

「榊、連絡ありがとう。迷惑を掛けてすまなかった」

「い、いえ……。随分、お早く……」

「礼は後日、また改めて。行くぞ、杉原」

課長はあわてて上着に手を通している私の肩に手をかけると、強引に部屋から連れ出そうとする。

「奥田取締役、お持ち下さい!専務の奥様よりこちらをお預かりしておりました」

「おふくろから?」

課長は榊室長から箱を受け取ると、「中身は?」と質問を投げる。

「そちらのお嬢様にとのことです」

「杉原に?」

「私に?」

困惑しつつ、課長を見上げる。

「分かった。ありがとう」

お辞儀をしている榊室長を扉の向こう側に残し、私たちは部屋を出る。

と、途端に課長がクルリと私の方を振り向く。

「この……っ、ばかやろぉ!!」

「すっ、すみません!!」

今まで聞いてきた「ばかやろう」の中でも特大級の怒りに体がすくむ。

「迷子になったんじゃないか、何か事件に巻き込まれたんじゃないかとずっと心配してたんだぞ!!」

「はいっっ!本当にすみませんでした!!」

ひぇぇぇぇ~。
こ~わ~い~よぉ~。

プルプル震えつつ、ひたすら頭を下げていると、ふわりと課長に抱きしめられる。


「いや……。すまなかったのは、俺だな。さっき、佐久間から報告を受けたよ」

えっ?

「俺がみんなにお前を同伴することを言うべきだった。すまない」

「そんな!」

謝る課長にあわてて手を振る。

「私こそ、連絡しなくてすみませんでした。それと、さっきの、その……榊室長と一緒にいたことなんですが……」

「ああ……」

急に課長の声が沈む。

そこで慌てて言葉をつなぐ。

「榊室長とは、何もありません!ただ着替えて……」

「信じる」

「えっ?」

「信じるよ」

「……課長」

「お前の言うことを信じる」

私の乱れた髪に、自らの指を絡ませると課長は私の肩を抱き寄せた。