「それ……は」

どうしよう!

交際復活!な~んてこと言ってしまったら社内恋愛ご法度のこの会社。

せっかく課長に再会できたのに、違うセクションに飛ばされないとも限らない。

……でも、ウソはつきたくない。

佐久間主任から渡された箱を胸に抱き、何も言えずに固まってしまう。

「ちょっと来いよ」

殺気立っている厨房を佐久間主任に手を引かれながら横切っていると、背後から誰かに肩を掴まれる。

「ちょっと、君!君は、確か……杉原由紀さんですよね?」

「榊室長!」

「何してるんですか?ここで」

「人手が足りないので、私が彼女に応援を頼みました。さっきからずっと厨房で手伝ってくれてましたよ」

佐久間主任がずいっと私と榊室長の間に割って入る。

「僕は杉原さんに聞いてるのですが」

「はっ、はい!すみません。えっと、佐久間主任のおっしゃる通りです!」

そこでなぜか榊室長はふーっと溜息を吐き、「何やってるんだ、君は……」とボソリと呟く。

「取りあえず、杉原さんは僕が引き取ります。佐久間君は僕に代わって厨房を仕切って下さい。デイスケ(=1日のスケジュール)をよく確認して……」

「ですが、私は杉原君に話したいことが……!」

「後にして下さい。僕も杉原さんに火急の用事がありますから」

榊室長の睨みの利いた営業スマイルに、さすがの佐久間主任も「分かりました」とビビりながらうなだれる。


た、助かっただっちゅ~。


厨房に戻る佐久間主任の後ろ姿を見送ってほぉっとしてたのも束の間、今度は榊室長にがっちりと肩を掴まれる。


「部屋を用意しています。僕について来て下さい」