なんだかんだで開場30分前。

厨房は今や殺気MAX。

会場にはセレブ達が続々と到着している模様。

「あ~。どうしよう!僕、緊張しちゃうよ~」

全てのキャベツを漂白剤で洗って全滅させ、役立たずの烙印を押されたKY横田が、ぶかぶかの給仕服を着て、蝶ネクタイを整えながら身をよじる。

「いーからお前は!とにかく笑ってシャンパンを差し出せばいいんだよ!」

いらっと気味の佐久間主任がKY横田のお尻にケリを入れている。

私はというと、そんなことに気を取られている暇もなく、慌ただしく前菜のサラダに慎重にドレッシングをかけている。


ってゆーか、本当だったら、私も課長にエスコートされて、今頃、あのセレブ達に紛れてパーティーを楽しんでいるはずだったのに……。

ポッケに忍ばせたケータイをそっと覗き見ると、着信が12件。

『由紀、今、どこにいる?』

『今、どこだ?』

『電話に出ろ!』

時間を追うごとに怒りの波動が過激になっている課長からのメールにビビりまくりで、とうとう無視してしまった。

私だって、あのドレス着て、課長とセレブしたかったっす。

まさか、私がお呼ばれ組に入っているとは夢にも思っていない佐久間主任にもとうとう本当のことを言い出せないまま、しっかり手伝ってしまった私。


あ~あ。

私ってば、ホント、損キャラ。

がっくしうなだれていると、背後からポン!と背中を叩かれる。

「杉原君、今日は助かった。君の斬新なアイディアのお陰で横田のキャベツ事件は無事乗り切れたし、君がいてくれて本当に良かったよ」

上機嫌の佐久間主任の笑顔が達成感でキラキラしている。

「いえ、そんな別に……」

ふと顔を上げた瞬間、佐久間主任の唇がチュッと私の唇をついばむ。

……え?!

「よしっ!開場だ!!」

榊室長の合図に合わせて、ボーイたちが一斉に扉から出て行く。

「このパーティーが成功裡に終わったら、夕食を奢るから」

佐久間主任は照れ臭そうに頭を掻きながら、そそくさと厨房から出て行ってしまった。




……………。




キッ!

キスしてしまった!!!!!