白亜の豪邸の前で車が横付けされるや否や、佐久間主任がムンズと私の腕を掴んで車を降りる。

私は、箱を両手で抱えたまま、車から引き摺り出される格好になる。

「何?その箱。車に置いてきたら?」

佐久間主任のご提案に首を振り、両手でがっちりと抱きしめたまま、彼の後を追う。

「パーティーまで後8時間、か。前泊して仕込みをしている連中もいるから合流して手伝いを頼むよ」

速足&早口で家の勝手口から入って行く。

そして、厨房の扉が開くなり、聞き覚えのある蚊の鳴くような声が厨房の奥から聞えて来る。

「す~ぎ~は~ら~ちゃ~ん!!待ってたよぉ~!!」

ちっちゃい体を精いっぱい伸ばして、ピョンピョン飛び跳ねているのは、間違いない!

KY横田!

「横田!なんであんたがこんなとこにいるのよ?!」

「澤村専務の現地サポートってことで、昨日からNY入りしたんだけど、いきなりここに連れて来られて『手伝え』って言われたんだよぅ」

「誰に?」

「誰にって……」

KY横田のじっとりと恨めしそうな視線の先にいる佐久間主任がさり気な~く視線を逸らす。

「ほら、いいから仕事を始めるぞ!」

佐久間主任がパンパンと手を叩く。



……こいつか。



「ってゆーか、澤村専務もNYに来てるの?」

腕をまくりながら、KY横田に話し掛ける。

「今晩のレセプションに出席するって聞いてるよ」

ふ~ん。

でも、ま、こうして厨房で働いている私には無縁の話だ。

会うこともあるまい。

そんな風に考えつつも髪をまとめ、コッペパンみたいな帽子を被り、エプロンをつけている間にも続々と厨房には援軍が送られてくる。

『そして、まずはこのグラスにシャンパンをお注ぎして……』

流暢な英語で話す声のする方を振り向き、ぎょっとする。

「榊室長?!何でここに?」

「ああ、彼、以前、ウエディングの会場でマネージャーの経験があるらしく、この厨房の仕切りを申し出て下さったんだ。有り難いよ」

いつの間にか、私の隣に腰を下ろし、佐久間主任が慣れた手つきでチャッチャとジャガイモの皮を剥いている。

すっげーーーー!!!

出来る!

佐久間主任、侮りがたし。

出来る男っちゅーもんは、料理も出来るんだ。

ほぉ~っと感心しながら見ていると、「俺、いいダンナになると思うよ」と佐久間主任がさり気なくアピールする。