ビルの地下駐車場に控えていた車の後部座席に乗り込むなり、佐久間主任はものすごい早口で説明を始める。

「杉原君、急なんだけど君の力が借りたい」

「私の力?」

「実は、今日、奥田さんの取引先がレセプションを開くんだけど……」

おおっ!

知ってる知ってる。

私は、腕に抱えている箱をぎゅっと抱きしめて、「私もお呼ばれされてるんですぅ~」と心の中でほんわかと相槌を打つ。

そんな私の隣で、険しい顔をした佐久間主任がなぜか溜息を吐く。

「実は、今日のパーティーを請け負っている会社の料理人達が集団でノロウィルスに感染したとかで、誰も来れないらしいんだ」

「えっ?!それじゃ、パーティーはなくなったんですか?」

「それが、さすがに今日の今日でのパーティー打ち切りは難しくてね。遠方から遥々、飛行機で来てる人もいるし。食材だって到着している。それに、今回のレセプションは、特別な意味を持っているんだ。そこで、こうやって、慌てて、腕に覚えのある人間を掻き集めて、料理作りをお願いしているって訳」

ふ~ん。

そうなんだ……。

……って。

えっ?!

ちょいまち!

「もしかして、私、料理を作るんですか?!」

「ビンゴ!頼むよ。取引先の副社長から直々に泣きつかれて断れないんだ」

「そんな!ムリです!絶対、ムリですって!」

「大丈夫だよ、君なら。料理の腕は間違いないし。それに、彼にも、もう当てがあるって連絡してしまったんだ」

オーノーーー!!

そうじゃなくて……。

私、お客さんなんだよ?!

課長にエスコートされて、ドレス着て、シャナリシャナリ~♪なんて歩く、お呼ばれ組なんだよ!

「今朝早くから何人か厨房に入ってくれていて、既に料理を作ってくれているらしい。君は英語がまだ不慣れみたいだから、僕も通訳がてら手伝うからさ。だから、頼む!」


「……そんなぁ」
「ここはひとつ、奥田さんのため、ひいては会社のために頼むよ」

がっくりと肩を落とす私の目の前で、不退転の決意で一歩も引かない佐久間主任が手を合わせる。