課長の後に続き、エレベーターに乗り込む。

ずぅぅぅんとエレベーターは地上階へと降りて行く。

まるで奈落の底に落ちて行くみたいだ。


でも、よくよく考えてみれば、そもそも、課長みたいなスーパーマンと私が付き合うこと自体、無理があるっちゅーもんだべさ。

私達って、はたから見ても恥ずかしいくらいアンバランスカポーだったよね。


だけど、不思議。

課長の言葉にはいつもウソがなかった。

本気で私のこと好きでいてくれた。

だから、何だか心がすぅっと澄んでいるんだ。


本当に短い間だったけど、夢を見させてもらったさぁ~。

課長、感謝サンクス雨あられ。

そんなこんなで、エレベーターの階数表示が1階で止まる。

「課長、私、マンションの場所さえ教えて下されば、自分でタクシ……」

降りようとした目の前で突然エレベーターの扉が閉まる。

唖然としていると、課長が「だめだ」と呟き、「31」のボタンを押す。

そして今度は逆にエレベーターが最上階を目指して、猛スピードで上って行く。

「課長?あの……だめって……それはもう一度、さっきの仕事、やり直し……ですかね?」

これから、また、仕事?!

オー……ノォォォ……。

軽くめまいを覚える。

と、その時、不意に課長に抱きすくめられてしまう。

「か、カチョーォ?!」

「俺は、お前に頼って欲しいとか、甘えて欲しいとか言われても、どうやったらいいのか分からん」

「課長……」

「だから、お前の期待に応えることはできない」

課長は腕を解き、私の頬を両手でそっと包み込むと、私のおでこにコツンと自分のおでこを合わせる。

「だが、守る。俺の全部でお前を守る。それではだめか?」

ゆるぎない誓いを込めた課長の目にクラクラした私は視線を逸らす。

嬉しい。

すごく、嬉しい。

嬉しすぎて、頬がゆるんで顔が上げれない。


「杉原?」

「……」

「答えろよ、由紀」


由紀?!

課長、今、私の名前で呼びましたか?

驚きつつソローリと上目遣いで見てみると、そこには、課長の不安そうな顔。

まるで、捨てられそうな犬っコロみたいな課長の不安顔がちょっと可愛いかもなんて思ってしまう。


嬉しすぎるんですが、課長。
どうしようかなぁ。
なんて答えようかなぁ。

考えつつも、嬉しくてやっぱり口元が歪んでしまう。


「いや、やはり答えなくていい。問答無用だ」


私は答える隙を与えられる間もなく、課長の甘い唇に全ての思考を奪われてしまっていた。