佐久間主任は私の手を掴んだまま、なおもズンズンと駅とは反対方向へと歩いて行く。

「佐久間主任!駅はあっちですよ!」

「知ってるよ」

「知ってるんだったら……って、もしかして、かなり酔ってます?」

「酔ってなんかないよ」

「酔っ払いはみんなそう言うんですっ!」

しかも、歩き進むうちに、繁華街は遥か後方に消え失せ、目の前には公園らしきものが見えて来る。

『特に、佐久間。あいつに気を許すな』

課長の言葉を思い出し、強く握られた手を力任せに振り解く。

茫然とした佐久間主任がクシャクシャと髪を掻き上げる。

「……私、帰ります」

「待てよ!」

踵を返し走り出す私の腕を佐久間主任がガッチリと掴む。

「離して下さい!」

「待てってば。何もしないからそんなに警戒するなよ」


何もしない?

そうなの??


佐久間主任の言葉に力が抜ける。

佐久間主任はどんな時だって、絶対、ウソなんかついたりしない。

抵抗を止めると、佐久間主任も手を離し、持っていたカバンを私に預ける。


えっ?
ちょい待ち。
カバン?
なんで私に?


「持ってて。それと、これも」


佐久間主任は眼鏡を外すと、これまた私の手のひらに乗せる。


なんで、眼鏡?

……ナゾじゃ。


首を傾げている私の前で、「これも」と言って、背広を私の頭にバサリと投げる。


ま、前が見えないよぉ!


慌てて、背広を頭から剥がし、腕に掛け直す。


酔っ払いって果てしなくナゾじゃ。


「佐久間主任?」

「3秒待って。ちょっと酔いを醒まして来る」

1秒後。

思いっきりノビをして駆け出した佐久間主任は「うぉぉぉぉ」と叫びながら噴水目がけてジャンプしちゃったんだ。