季節は、夏。
あたし…此花柚姫にとって、高校最後の夏休みが訪れていた。
高校3年ということはつまり、受験生でもある。
受験勉強に励みつつ、昼間は基本リコールで過ごすことが多い。
と言っても、リコールではほとんど勉強しているのだけど。
けれど、リコールに来た方がずっと効率がいい。
と言うのも、リコールは冷房がきいてて涼しいし、原田さんが時々かき氷を出してくれる。
あと、勉強を教えてもらえる。
あたしの第一志望に通う大学生が、四人もいるのだから。
時々、それぞれの得意分野を見てもらったりしている。
暁くんは、数学と理科全般。
優兄は、国語。
愁生さんは英語で、李織さんは社会科全般が得意。
暁くんも英語は得意だけれど、うまく教えられないんだって。
そんな今は、李織さんに倫理の勉強に付き合ってもらっていた。
「…違う。それはソクラテス。」
「あれ?じゃあ、無知の知?」
「それもソクラテス。」
「えぇ…!?」
あたしが必死に記憶を引っ張りだそうとする横で、李織さんはあくびをした。
「…ホントに、大丈夫?受験生」
「だ、大丈夫ですっ。ちょっと今は記憶が…」
「ふぅん…。じゃあ、この問題。」
「あ…っ、あ、待ってください…!見たことある!確か………プラトン!!」
「残念、ハズレ」
「嘘っ!?」
またしても間違えてしまい、あたしはうなだれる。
そんなあたしを見て、李織さんは微かに笑った。
「…どんだけ苦手?」
「わっ、笑わないで下さいっ…!」
「笑ってないけど?…ふっ、くく…」
「笑ってるじゃないですかっ!!」