この世界には未だ誰もが知り得ないような、摩訶不思議なことが何の前触れもなしに突如として日常の狭間に訪れることがある。






 赤い夕日が家路に付く人々の喧騒でごった返す町を照らしていた。
 その喧騒の中、私はただ遮断機の降りた線路を見つめていた。
 耳障りな遮断機の音が頭の中にこだましていたけど、たいして気にならなかったのは、それが私の日常の中の一部にしか過ぎないから。
きっと、誰もが同じ。
目の前にあるこの日常が永遠に流れ続けて行くものだと信じてやまない。
 でも、もし、例えほんの一瞬でもこの日常が途切れる瞬間が訪れたなら……



ハッとして、私は線路に落としていた視線をあげた。

 音がない

 その事に気付くのにほんの一瞬遅れたのは私の周りに存在していた音が音ではなくて日常になってしまっていたから。
不気味な静けさが辺りを支配し、まるで時間が止まってしまったかのように、誰もがぴたりと動きを止めていた。