この事件を境に、お兄ちゃんと私の間はぐっと縮まって……

いいはずなのに。


「もう!お兄ちゃんのバカバカ!!私より早く起きてるくせに、何で起こしてくれないのよ~!!」

私は階段を1つ飛びにドタバタと降りながいつものように文句を言うと、リビングの扉を開けた。

「相変わらず騒がしいわね。響ったら。もう少し、早く起きたらどう?健二ならとっくに学校に言ったわよ」

嫌味もタラタラにママが、私の目の前にトーストを置く。

「いらない!」

「もうっ!!」

ママのガミガミ声に背を向けて、バス停までダッシュする。

いた!

お兄ちゃん!!

「すみません。ごめんなさい。ちょっといいですか?」

私は列に並んでいる人たちに頭を下げながら、お兄ちゃんの隣に到着する。

お兄ちゃんは読んでいた本から目を離すと、ちらっと私を見る。

「ちゃんと並べよ」

「えーーーーっ!」

ひどい!

全然、お兄ちゃんは以前と変わりなく冷たい。

変わったのは、メガネを掛けなくなったことと、それと……

「おい!響!!」

口を尖がらせながら、列の最後尾に歩き出した私が振り向くと、

「これ、着ろ!」

お兄ちゃんが放ったコートがばさっと私の顔に被さる。


コートからはお兄ちゃんの匂いがする。

お兄ちゃんは少しだけ、ほんの少しだけ私に優しくしてくれるようになった。


袖を通すとあったかくてお兄ちゃんに包み込まれているような気がする。

コートをぎゅっと抱きしめる。

やがて、バスが到着し、早々とお兄ちゃんは椅子に腰を下ろす。


人の波に押されるように奥へと入っていく私の手を掴み、「座れ」と私に椅子を勧める。


「い、いいよ」

「いいから、座れ」

言われるままに、腰を下ろし、代わりに立っているお兄ちゃんをチロリと上目遣いで見る。

……本、読んでるし。

全然、依然と変わらず素っ気無いお兄ちゃん。


立ちながら本に目を落とし、メガネを押し上げる仕草をしてメガネがないことに気付き、「あ、そうか」なんて顔している。

そんなお兄ちゃんを見てクスクス笑っていた私に気付いたお兄ちゃんは、「見てるなよ」なんて小さく囁きながら私の頭をコツンと小突く。