彼はいつも予想を超えている。期待を裏切る。

つまり、いつだってあたしの常識の範囲外なのだ、彼は。








─それは数日前のことだった。

あたしのバイトが久しぶりに休みで…だから、まぁ別に他の予定を入れるつもりだったのだけれど、でもちょっと知らせないのも可哀想かなぁなんて思って、映画とかたまには観たいよなーとか思って、実際たまには長いこと会ったりしたいなぁなんて、微かに、思って。だから。


『明後日、あたしバイト休み。映画観たい気分。』

っていうメールを送ってみたら、三分後に、


『僕も明後日、ポップコーンの気分です』

…って返ってきた。

カボの中では、映画館イコールポップコーンらしい。ただし、普通の塩味じゃなくキャラメル味がいいらしい。


「でもキャラメルを食べ続けると甘すぎて舌が麻痺するみたいになるんです。だから僕は、上六割キャラメルポップコーン、下四割塩味ポップコーンを提案します」

…あたしにそんなこと提案されても。

「ああっ!!でも境界線が混ざってしまって微妙ですね。ここをどうのりきるかが問題です」


…ほんと、どうでもいい。


映画はなかなか面白かった。でもスクリーンの中で何か爆発したり、銃声が飛んだりするとカボが飛び上がって驚くので、いちいち周りに注目された。

…アクション系を選んだのは、少し間違いだったかもしれない。


「面白かったですね、山田さん!」


にこにこと彼から振りまかれる笑顔は本当に幸せそうで、あたしも少し嬉しくなった。

映画の後、あたしたちはマックで昼食を取ることにしていた。

ジュースのストローをおちょぼ口になってくわえるカボは、なんだか可愛い。そしてそれがオレンジジュースであることも。


「…ところでさ、カボ」

「はい!何ですか?」

「前から気になってたんだけど、なんでずっと敬語なの?」


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