"from:カボのお母さま"
"件名:もうすぐ"


"本文:山田さん、元気?もうすぐバレンタインなので、今日は練習にマカロンを焼いてみました!ちょっと膨らみすぎちゃったけど、ひとつひとつが我が子みたいでかわいくて★"





「うーん……」


授業も終わり、帰りのホームルーム。

先生の話もそこそこに、あたしは一冊の本とにらみ合っていた。


『ぶきっちょさんでも楽チン☆おいしいお菓子づくり』



今日で、2月に入った。

すっかり忘れていたけど、今朝届いたカボのお母さまからのメールで思い出した。


もうすぐ、バレンタインがやってくる。


クリスマスで散々思い知ったが、あたしはよっぽどの料理オンチ。

前もって準備しとかなきゃ、今回も夜中まで焦ることになる。


…それにしても。


何を作ればいいのか、全く決まらない。

ぶきっちょさんでも楽チン、とか書いてるくせに工程がすんごいややこしいんですけど。

ツノが立つまで泡立てる、アメ色になるまで煮詰めるって何だ。

切る・混ぜる・焼く以外の工程を持ち込まないで下さい。


トリュフ、生チョコ、ザッハトルテ。

本のページをめくるたびに、夢のように可愛く飾り付けられたお菓子に対面する。

…ああ、ダメだ。お菓子たちに笑われてるような気さえしてきた。

「お前なんかが我が輩を作れるわけがなかろう」みたいなこと言われてる気がしてきた。

っていうか我が輩とか何様なんだよザッハトルテめ!!ちょっとツヤツヤしてるからって…


「…はぁ」


頭を抱えたまま、憎たらしいお菓子の本を閉じる。


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