気持ちが涙と一緒に零れ落ちた。

「ごめんな」

片岡和人は、目を閉じて静かに私の気持ちを拒絶した。

「オレ、ハルナのことしか考えられない。あいつのことだけで、いっぱいいっぱいだから」

「私が好きだって言っても?少しも可能性なし?」

「なし」

「ちょっと位、入る隙間も?」

「1ナノメートルも有り得ない」

「ひどい・・・・・・」


彼がハルナちゃんを覚悟して抱いたことを知った時から、もう分かっていたのかもしれない。

彼は彼女のことを心から愛してるんだってことを・・・・・・

「俺が死んだらさ・・・・・・」

「灰を海に撒けって?」

私は泣き笑いながら茶化した。

それもいいなと彼は笑った。

「オレの体、お前に献体するよ。好きに切り刻んでくれていいから」

「生きてる時に献体してよ!」

「それはちょっと、っつーか、かなり無理だろう」

私達はお腹を抱えて笑った。

「失恋してんのに、笑えるなんて・・・・・・。やっぱ、あんたサイコーだわ」

お互いの笑いが引いて、不思議なことに何だか憑き物が落ちたみたいに心が晴れやかになった。



私は、穏やかな気持ちで最後に無理を覚悟でお願いをしようと顔を上げた。

「あのさ。最後に、ひとつだけお願い聞いて」

「なに?」

「老いては老後のネタ。死んだら、墓場のお供ってヤツにするからさ」

「なんだよ?」


片岡和人は、口の端をちょっと上げて困ったように笑った。


ああ、やっぱり好き。


死ぬほど、好き。


息を思いっきり吸い込み、人生最大の賭けに出た。


「・・・・・・キスして」