あの日から片岡和人は今まで以上に猛勉強を始めた。

勉強をする以外は相変わらず大学病院で子供達に勉強を教えていた。

彼は、ハルナちゃんを抱いたことを後悔していないよ・・・と言っていたけど、それはウソだ。

彼自身が慈しんで大切に育ててきた花を無理矢理手折ってしまった・・・

そんな後悔に苛まれている事は、時折見せる彼の表情からも伝わってきた。

私が大学へ行く支度をし始めた頃、いつもなら先に起きてリビングでコーヒーを飲んでいるはずの彼の姿が見えなかった。

私が、心配して彼の部屋の戸を開けると、彼は真っ青な顔をしてベッドの上に大の字になっていた。

「どうしたの?」

私が慌てて駆け寄ると、彼はだるそうに手を頭にかざし、

「いや、ちょっと、一瞬、気持ち悪くなった。でも、もう大丈夫」

片岡和人は無理に起き上がろうとした。

「まだ、寝てた方がいいよ。真っ青だよ!」

無理も無い。

彼はあの日から殆ど何も食べていなかった。

多分、寝てもいなかったんじゃないだろうか。

私は、もう黙って見届けるのが限界だった。

「もう、いいじゃん」

「え?」

「もう止めればいいじゃん」

「・・・・・・」

「ちっともハッピーって感じじゃないよ!」

「オレはハッピーだよ」

「ハルナちゃん、他に好きな人がいるんでしょ?!そのコにあげればいいじゃん!!」

彼は肘で上半身を支えるように起き上がると、私に手を上げようとした。

「殴れば!」

私は彼を睨みつけた。

すると突然彼は、一瞬呆気にとられた顔をしたかと思うと、そのまま膝を抱えてくつくつと笑いだした。

「な、なによ?!」

「いや。昔、似たようなことをオレに言った女がいたなって思い出してさ。そいつもこぇ~のなんのって」

「そいつって」

「チューボーんときのモトカノ」

彼は体を丸めると膝に顔を埋めながら「はぁ~」と吐息を漏らした。

「悪りぃな。リョーコ」

彼は顔を膝に埋め、両腕で膝を抱えながら私に謝った。

「何が?」

「お前、俺のことが好きなんだろう?」

そう言うと、彼はゆっくりと顔を上げ、真っ赤になっている私を見つめた。