ある日、片岡和人が珍しく「今日、暇だったらドライブに行こう」と誘って来た。

嘘?!

こんなことって、あるの?

「付き合ってあげても良いけど」なんて、さり気なく答えたものの、心の中はランランルンルン♪

トビキリのおめかしをして、さり気なく彼の車の隣りに乗った。

機嫌が良いのか、時折、鼻歌を歌う彼。

「煙草吸ってもいいか?」

ちらっと横目で私を見て、ハンドルを切る彼。

ああ……
何だか、夢みたいだ。
まるで、恋人同士みたいな……

この片岡和人との2人きりの時間がくすぐったくて、私の頬はずっと緩みっぱなしだったけど


「じゃ、私も煙草いいかな?」


なんて、小悪魔風に髪を掻き上げたりして。

でも、もう嬉しさで心が弾けちゃってる!


片岡和人が連れて行ってくれたのは海岸線沿いのとあるプリン屋さんだった。

ビーカーに入った大きなプリンを二人で頬張りながら、海の上を飛ぶカモメを見ていた。

暫くすると、「遅れてごめん!」と言いながら、同じクラスの飯島剛が入ってきた。

何故彼が?!


その疑問は直ぐに解かれた。


片岡和人は飯島剛を私に紹介し、彼がいかにいいヤツかを説明すると、「じゃ、オレ、用があるから」と席を立とうとした。

「じゃぁな、がんばれよ、飯島」

「サンキュ。わざわざすまないな。このお礼はまた今度」

浮かれた気持ちが一気にしぼんで行く。



ふーーーーん……


そーゆーこと。

私は、テーブルの下で膝の上に引いたハンカチを強く握り締めると、去ろうとする片岡和人に向かって叫んでいた。


「私!好きな人いるから!!」


片岡和人は、「え?!」っと小さく声を発すると驚いたように振り返った。


「その人、他に好きなコがいるけど・・・・・・。私、奪うつもりだから!」


片岡和人は、一瞬、キョトンとした顔をしたけど、すぐに口の端を上げて、ニッと笑った。


「こぇー、オンナ・・・。ま、健闘を祈るよ」

「本気だから!!」

「・・・・・・」


彼と私の目が正面からぶつかった。

勘のいい彼のことだ。

さすがに気付いたかもしれない。


「へぇ~・・・・・・。やれるもんなら、やってみなよ」


彼の目は冴え冴えとして、冷笑さえ浮かべながら、店の扉をカランコロンと鳴らして外へと出て行った。