雨――

といっても、ただの雨ではない。

まるで滝のような、土砂降りの雨。

空を余すことなく覆った黒雲から、それは容赦なく叩き付けられる。

その激しさは、息苦しさすら覚えるほどだった。

まだ正午だというのに辺りは薄闇に支配され、視界を遮る雨と重なって、非常に見通しが悪い。

その中で、不意に一筋の光りが輝いた。

それは、山道を下る1台の車のヘッドライトだった。

悪天候にも負けず、男女4人を乗せた車は元気に走っていく。

だが、それは次第に速度を落とし――

やがて、道から少し外れた駐車場に停車した。


「起きろ……ほら、起きろって」

「ん……」


肩を揺すられた少女は、ゆっくりと瞳を開ける。


「あ……兄さん……」


まだ良く開かない瞳を擦り、少女はつぶやく。


「私……いつの間にか寝ちゃったんだ……」

「お前が寝てる間に、大変なことになったぞ」


兄は、大袈裟な素振りで深い溜め息をついた。


「どう……したの?」


事態が飲み込めない少女は、まだ夢の中にいるような口調で訊ねる。


「実は……この先で土砂崩れがあって、山を降りられなくなっちまったんだ」

「……ええっ!?」


一気に現実世界に引き戻された少女は、その目を大きく見開いた。


「いつ道が通れるようになるかわからないから、とりあえずここで一休みしていこうと思う」


そう言って、兄が指差す先。

雨に滲む窓ガラスの向こうに、古びた洋館が見えた。


「あそこに行くの!?」

「もう、あいつら行っちまったしな……」


目を凝らすと、確かに土砂降りの中を走る人影が見えた。

影は2つ。

それが、後部座席に乗っていた2人だと気付くのに、時間はかからなかった。