禁門の変より数日後、矢央は沖田を相手にし平和だなぁなんて呑気に欠伸をしていたりする。


ーーーああ、目まぐるしかった数日前までが少し懐かしいよ。



「相変わらず治りは早いんですね?」

「そうですね? もう完治しちゃってますよ」


銃弾の傷口が完全に塞がったとはいえ、矢央の療養はまだ解かれていない。

療養組の仲間ともいえる沖田と共に部屋から見える庭を眺めながら、のんびりと夏を満喫中である。



「にしても暑いなぁ」

「そりゃあ、夏ですからねぇ」


この時代二度目の夏を迎えた矢央は、茹だるよう京の暑さにどうにか涼む方法はないものかと思う。

しかし冷房や扇風機すらない時代、暑さを凌ぐ唯一の道具といえば団扇くらいなもの。


パタパタ……


うつ伏せになり部屋から上半身だけを出して寝転んでいた矢央を、その隣で扇いでやる沖田の方が暑いはずなのに、汗一つ流さない爽やかに


「爽やか王子は健在か…」

と、にんまりと笑う矢央。


「王子? それより矢央さん、退屈しのぎしませんか」


畳よりは冷たい廊下に頬を押し当てていた矢央に、神の声ではないかというような甘い誘惑がもたらされる。


一番隊隊長沖田総司は、一見穏やかな好青年だ。

しかし矢央同様に、退屈なものは退屈で部屋にずっと綴じ込もっていられるタイプではない。


「なにするんですか!?」

「うふふ。 では、鬼のいぬまにお出かけしましょう」


悪戯好きな少年のような笑みで、ニコッと微笑んでいた。


数分後、屯所のどこにも沖田と矢央の姿はなかった。