ひとつき、ふたつきと暮らすうちに、李漢は、自分が教えた事も含めて、椿のおよその一日の過ごし方を把握することができた。

 椿は大抵、朝は陽が昇る前には起き出し、武術の稽古をしている。
陽が昇り、李漢が起き出す頃には、水を汲み、家畜の世話をし、火をおこす。
朝餉を終えると、畑仕事に、野狩りにと村の営みを日が暮れてしまうまで手伝う。
夕餉の後は書物を読み、床に着く前には、毒を混ぜた茶を飲む。

毒入りの茶を初めて目にしたときは、李漢もさすがに驚いたが、椿曰く、少しでも毒に耐性をつけ、毒殺を免れるようにとお祖父様から教わった、そうだ。
数種類の毒を配合した特別な茶は、椿がここに来るときに、泰から持ってきた荷の中に瓶詰めされ、周到にも、底をついた時のことを考え、材料と配合比率を記した書物と一緒に押し込まれていた。

どうせならそんなものより衣だの下着を入れて欲しかったと、李漢は渋い顔をした。

 椿の持ってきた荷の中には、他にも李漢を驚かせたり、時には唸らせるような物が多数入れられていた。
油紙やら熊皮などの旅に必要なものはともかく、武術書、戦術書、薬草学に医術の学術書なんかの書物には言葉を失ってしまった。
泰国でも貴重な最新の医術書や薬学書を見つけた時には、背筋が凍った。
おそらくは椿家の家宝として代々引き継ぐために、師が伝手をあたってかき集めた大切な書物なのだろう。
それを国外流出なぞさせているのだから、ただ事ではない。

(祖父の期待を一身に背負った子、か)

師は椿に何を望んでいるのだろうか。
貧しい農村出身の自分は、到底難解な文字など読めないのだから、これらの書物を読解することなど不可能だ。
可能だとすれば、それは椿ただ一人ということになる。