頭上を、カラスが鳴き交わしながら飛び去って行く。
頬を撫でる涼やかな風は、昼間の熱気を忘れているかのようだ。


陽が……ずいぶんと長くなった。


湖面を紅く染める夕陽に、ぼんやり、そう思う。

時刻はもはや6時に近い。
なのに、空はしっとりと淡く輝いている。
その、光と闇の入り混じった、橙とも紫ともつかない色合いに、つい、心を奪われた。


「お……っと」


ガチャン


車輪が跳ねた。


危うい振動に、景色を見ている場合ではないことを思い出す。

まだ、道のりは半分。
少し乱れ始めた息を深呼吸で整え、ペダルをこぐ足に目一杯力をこめた。


たかだか3ヶ月前に買ったばかりだというのに、銀色の自転車はもう、すっかり汚れて泥がこびりついている。
よくて灰色。ひどければ、茶色か錆びた黒に見えるだろう。