マスターの顔が少し赤く見えるのは、私の気のせいだろうか…

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」

私は本心からそう思った。
今まで、私を必要だと言ってくれた人は一人でもいただろうか…


「マスター、私はそろそろ上がりますね」

「あ、ああ。お疲れさま」

私は椅子から降りて店の裏に行きかけてから、ある事を思い出した。

「美緒ちゃんは今日も来ませんでしたね?」

マスターの愛娘の美緒ちゃんは、学校の後によく喫茶店に遊びに来ていた。

美緒ちゃんは、色白で目がクリッとして、たぶん亡くなったお母さん似だと思うけど、お人形さんみたいでとても可愛いらしい女の子だ。

何日か前にも遊びに来て、私とお揃いのメイド服がほしいと、マスターにダダをこねていたっけ。

その美緒ちゃんが、昨日も今日も来なかった。