あの電話以降、あたしは事あるごとに自分の鼓動を抑えるのに必死だった。

 土曜日のことを思い出しては、どきどきが強くなる。

 そして、誰にも知られないようにこっそりと深呼吸して落ち着ける。

 1週間以上も時間があったんだから、慣れてもいいはずなんだけど――

 チリリーン――……

「やぁ、さくらちゃん」

 原因は、すごく根本的なところにあった。

「お……っ、お帰りなさいませ、ご、ご主人様――……」

 まるで、あの10日間が嘘だったかのように、電話をした翌日から、またシンさんがお店へとやってきてくれた。

 この日も夕方の茜色に染まりかける穏やかな時刻にやってきたシンさん。

「今日も、少ししかいられないんだけど――」

 そう言いながら、真治さんと一緒にお店にやってきては、嬉しそうにメニューを眺めて、いつものお絵かきオムライスとおまかせパフェ、それにコーヒーをオーダーする。

 少ししかいられない、って言葉の通り、シンさんたちは注文したものが届いて平らげると、10分ほどテーブルで話をして、すぐに席をたって行っちゃう。

 しかも、この前は毎日来てくれたたけど――今は、2~3日に1度。

 ちょっと寂しいとは思う……でも、毎日シンさんが来てくれたら、きっとあたしの心臓はオーバーヒートでもたなくなりそうな気がした。