本日、二月十四日。バレンタインデー。



 午後五時。定時に仕事を終えた奈津美は、ロッカールームで制服から私服に着替えていた。いつもよりもてきぱきと身仕度を整えている。


「奈津美、今日は早いわねぇ」

 カオルはいつも通りのペースで着替えている。


「ケーキ作らないといけないから」

 奈津美はそう言いながら着替えを終える。そして皺にならないように制服をきっちりとハンガーにかける。


「ああ。それに今日はお泊まりだもんねー」

 カオルがからかい顔で奈津美を見る。


「べっ別にそれは関係ないから!」

 ほんの少し頬を赤くして奈津美は言い返す。


「でもどういう風の吹き回し? お泊まりOKしたのって」


「…まぁ、イベントの時ぐらいはいいかなって思ったの」


 『何となく、会いたくなったから』なんていくら友達でも、というか友達だからこそ恥ずかしくて言えない。


「へ~。まぁ普通はやっぱりそういうもんよね。いいなぁ…やっぱりあたしも今日会いたかったなぁ」


「でも週末会うんでしょ?」


「うん…でもやっぱり世間がバレンタインムードの中で一緒に居たいじゃない。まぁ、ワガママは言えないけど」


「確かにねぇ……あっ、じゃああたし帰るね!」

 奈津美は時計を見て、急いでロッカーを閉めて鍵をかける。


「じゃあね。お疲れ様!」


「お疲れー。よい一夜を」


 そんなカオルの声を背中に受け、奈津美は早足でロッカールームを出た。