ケータイ小説 野いちご

軽快な飛び降り自殺

軽快な飛び降り自殺


軽快な飛び降り自殺。

一階から五階まで、非常階段をいっきに駆け上がる。上靴の鳴らす音が小気味良い。少しだけ呼吸が乱れる。鍵の掛かっていないドアを片手で開けると、そこに広がる真っ青な空に飛び込んだ。

重いものは、下へ。
支えを失った身体から質量が抜ける。まわりの景色が物凄い速さでせり上がる。頬に冷たい毛先が当たって、痛い。
鼻から口から、息を吸い込むだけ吸い込んで苦しくなってきたところで、私の両足は突如迫ってきたアスファルトの地面を完璧に捕らえた。




重いものは、下へ。
ポテンシャルエネルギーを使い果たした物体は運動を止める。


軽やかな着地。
しばしの静寂。


まわりの景色は静止し、身体は質量を取り戻す。


予定調和な世界。
いい加減の証明。


まわりの景色は静止し、身体は質量を取り戻し、落下の衝撃を受け止めた頸骨、左右の胸鎖乳突筋がねじれ、ピアノ線で絞めたように縦に分断され、私は五感を半ば強制的に手放して、そして頭部はあるべき支えを失った。

ぽとり。



重いものは、下へ。
そんな揺るぐことのない宇宙の絶対的な摂理に倣って、

私の頭は地面に落ちた。



< 1/ 1 >