「ね、柾巳くん、耳貸して」


にこにこ、と。
普段とはどこか違う笑顔だと気づいても、愛しい彼女に頼まれれば、嫌とは言えない。


「なんだよ、いったい……」
「いいから!」


訊ねてみても埒はあかず、隣を歩く愛しい彼女の背に合わせて腰を屈めた。



「あのね、…───…だよ」



一瞬、思考停止。


「えへへ」


固まったままのオレの横から小走りに距離を取って、はにかんだ笑みを見せて振り返る彼女に、ようやく一本取られたことを理解する。


「柾巳くん、顔、真っ赤」
「……誰のせいだよ、」


彼女の言葉の通り、顔が熱い。
開いた距離をひと息に縮めて、細い体躯を抱きしめる。


「あ、わ、わわっ、柾巳くん……!?」


「……マンションに帰ったら、覚悟しとけよ」
「へ?」


腕檻のなかで今度は彼女が顔を赤く染めて、引きつらせる。
そんな表情をしても手遅れ。



オレを煽ったのは、何よりもお前自身なんだからな。









「あのね、柾巳くん、だいすき…だよ」







恥ずかしがり屋な彼女から、思いがけずに極上の囁きを貰えば、オレは止まれない。




20101122


(それは至極当然の事象)