「ねえ、榎田くん」
「何?」


目の前の少女の呼びかけに応えるように綺麗な弧を描いてにっこりと笑ったのに、彼女は嫌そうに顔を歪めた。


「……私、何かした?」
「別に何もしてないよ」


窺うように訊ねてくる彼女に笑顔を崩さずに答える。


「嘘……っ!榎田くん、何か怒ってる」


けれど、表情とは裏腹にふてくされた口調では彼女が納得する訳もなく。


「……あかりがそう思うなら、そうかもね」


どこか憮然と吐き捨てれば、歪んだ表情が泣き出しそうに崩れた。
オレには、それさえも可愛らしいと思ってしまうけれど。


だけど今は何よりも彼女の泣き顔に胸の裡が痛む。

泣かせたい訳じゃないから。



「ホント、あかりはズルいよね」



細く華奢な肩を抱き寄せて、結局、白旗をあげたのはオレ。