幸恵は父親の後を継ぎ、山〇組系××会の女組長をしていた。

現在45歳の独身だが短大生の娘が一人いる。

幸恵が昔愛して子供を生んだ父親というのが、同じ極道の世界の男慎吾で妻子持ちだった。

つまり、幸恵は愛人の子を身ごもり、一人で育て上げてきたのだった。

愛人と言う日蔭の身だったが、幸恵は決して不幸だった訳ではなかった。

慎吾は妻と同じぐらい幸恵を大切にしてくれたし、幸恵も愛人とは言え慎吾に心から愛されていると感じていた。

そんな二人が仲良く銭湯に行った時、脱衣所の壁越しに慎吾が

「幸恵いつも苦労ばかりかけてすまんな。俺はお前が大好きやで」

他のお客さんの人目もはばからず、大きな声で幸恵に言った。

それを女湯の脱衣所で聞いていた幸恵は、嬉しさのあまり涙をぽろぽろと零した。

不器用で気の荒い慎吾だったが、幸恵への気遣いはいつも忘れなかった。

だから人から極道の愛人と呼ばれても、幸恵は気にせず幸せに暮らしていた。